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zoom RSS 箕輪初心★若山牧水11みなかみ紀行「白根温泉〜金精峠」

<<   作成日時 : 2013/02/01 05:14   >>

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若山牧水は老神温泉「牧水苑」で、新治村の生方吉次と別れた。
雨傘に2首を書き、「牧水苑」に残した。→吹割の滝→東小川村
で千明家に立ち寄った。→紹介を受けた白根温泉=現丸沼温泉
に泊まった。粗末な養鱒小屋であった。・・・翌日は養尊場を見学
し、丸沼→金精峠に向かった。
金精峠からは男体山&女体山、
そして、中禅寺湖が見えた。★若山牧水は・・「群馬よ、さらば。」
と、心の中で思ったのに違いない。

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(★土屋文明記念文学館の本より)
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若山牧水 みなかみ紀行:青空文庫にお世話になってます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000162/files/4649_15562.html


◆◆ 箕輪初心★若山牧水の上州旅@水上〜川原湯温泉 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_23.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水の上州旅A「妙義&磯部温泉」 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_24.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水の上州旅B榛名湖&伊香保温泉 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_25.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水の上州旅C川原湯温泉&草津温泉 ◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_26.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水の上州旅Dロマンチック街道 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_27.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水の上州旅Eロマンチック『旧六合村」 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_28.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水Fロマンチック『四万温泉』 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_29.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水Gロマンチック『法師温泉』 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_30.html

◆◆ 箕輪初心★若山牧水Hみなかみ『猿ヶ京&湯宿温泉』 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_31.html


◆◆ 箕輪初心★若山牧水Iみなかみ紀行『老神温泉』 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_32.html


◆◆参考にした文献
若山牧水 みなかみ紀行・・・青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/000162/files/4649_15562.html



10月26日
●老神温泉「牧水苑}→吹割の滝
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 (★吹割の滝)

★現釣り堀&分岐

★公衆便所・・・・毎回寄るトイレがある。

●鎌田
※須賀川から鎌田村あたりにかゝると四邊(あたり)の眺めが
いかにも高い高原の趣きを帶びて來た。白々と流れてゐる溪を
遙かの下に眺めて辿つてゆくその高みの路ばたはおほく桑畑と
なつてゐた。その桑が普通見る樣に年々に根もとから伐るので
なく、幹は伸びるに任せておいて僅かに枝先を刈り取るものな
ので、一抱へに近い樣な大きな木が畑一面に立ち並んでゐるの
である。老梅などに見る樣に半ばは幹の朽ちてゐるものもあつ
た。その大きな桑の木の立ち竝=並んだ根がたにはおほく大豆
が植ゑてあつた。既に拔き終つたのが多かつたが、稀には黄い
ろい桑の落葉の中にかゞんで、枯れ果てたそれを拔いてゐる男
女の姿を見ることがあつた。土地が高いだけ、冬枯れはてた木
立の間に見るだけに、その姿がいかにも佗しいものに眺められ
た。
 
★寄居山温泉センター=寄居城・・・3回

★製麺・・・片品蕎麦を年越し蕎麦にしている。

★梅田屋・・・1回

●尾瀬との分岐


◆◆ 箕輪初心◆岩鞍スキー ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201301/article_8.html
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◆◆ 箕輪初心◆尾瀬40回 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201106/article_6.html
http://s.webry.info/sp/53922401.at.webry.info/201206/article_8.html
若山牧水は尾瀬には行っていない。
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◆◆ 箕輪初心◆至仏山 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201102/article_6.html
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◆◆ 箕輪初心▲春山の景鶴山 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201105/article_3.html


★とうもろこし街道
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●東小川村=千明邸
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※そろそろ暮れかけたころ東小川村に入つて、其處の豪家C
―を訪うた。
千明邸である。

私は50m隣も民宿「粉雪」に泊まってスキーも
したこともある。



※明日下野國の方へ越えて行かうとする山の上に在る丸沼
といふ沼に同家で鱒の養殖をやつてをり、其處に番小屋があり、
番人が置いてあると聞いたので、その小屋に一晩泊めて貰ひ度く、
同家に宛てゝの紹介状を沼田の人から貰つて來てゐるのであつた。
主人は不在であつた。そして内儀から宿泊の許諾を得、番人へ宛
てゝの添手紙を貰ふ事が出來た。
 
★発電所

10年程前に、新しい日帰り白根温泉ができた。
  2回入った。

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白根温泉「加羅倉館」。
道の左に本館、道の右に温泉がある。
 10回以上、入っている。
 
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 (★現在の風呂)

◆◆ 箕輪初心:丸沼スキー場・・100回? ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201204/article_17.html

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◆◆ 箕輪初心:日光白根山への登山5回 ◆◆
http://53922401.at.webry.info/201207/article_1.html

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※村を過ぎると路はまた峽谷に入つた。落葉を踏んで小走りに急
いでゐると、三つ四つ峰の尖りの集り聳えた空に、望もちの夜近い
大きな月の照りそめてゐるのを見た。落葉木の影を踏んで、幸に迷
ふことなく白根温泉のとりつきの一軒家になつてゐる宿屋まで辿り
着くことが出來た。
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●丸沼・・・★冬の写真しか見つからない。
写真の右奥が若山牧水の泊まった場所である。
千明氏の別荘・・・六角堂→丸沼温泉ホテル
※此處もまた極めて原始的な湯であつた。湧き溢れた湯槽には
壁の破れから射す月の光が落ちてゐた。湯から出て、眞赤な炭
火の山盛りになつた圍爐裡端(いろりばた)に坐りながら、何は
兎もあれ、酒を註=注文した。
 ところが、何事ぞ、無いといふ。驚き慌てゝ何處か近くから買つ
て來て貰へまいかと頼んだ。宿の子供が兄妹づれで飛び出したが、
やがて空手で歸つて來た。更に財布から幾粒かの銅貨銀貨をつ
まみ出して握らせながら、も一つ遠くの店まで走つて貰つた。

遠くと行っても、7〜8kmある山道だ。若山牧水は無謀な
ことをさせる御仁である。


 心細く待ち焦れてゐると、急に鋭く屋根を打つ雨の音を聞い
た。先程の月の光の浸み込んでゐる頭に、この氣まぐれな山の
時雨がいかにも異樣に、佗しく響いた。雨の音と、ツイ縁側の
さきを流れてゐる溪川の音とに耳を澄ましてゐるところへぐし
よ濡れになつて十二と八歳の兄と妹とが歸つて來た。そして
兄はその濡れた羽織の蔭からさも手柄額に大きな壜=瓶を取り
出して私に渡した。


●養尊場

M10月27日
※十月廿七日
※宿屋に酒の無かつた事や、月は射しながら烈しい雨の降つた事
がびどく私を寂しがらせた。そして案内人を雇ふこと、明日の夜
泊る丸沼の番人への土産でもあり自分の飮み代でもある酒を買つ
て來て貰ふことを昨夜更けてから宿の主人に頼んだのであつたが、
今朝未明に起きて湯に行くと既にその案内人が其處に浸つてゐた。
顏の蒼い、眼の瞼しい四十男であつた。

※昨夜の時雨が其の儘に氷つたかと思はるゝばかりに、路には霜
が深かつた。峰の上の空は耳の痛むまでに冷やかに澄んでゐた。
溪に沿うて危い丸木橋を幾度か渡りながら、やがて九十九折つゞ
らをりの嶮しい坂にかゝつた。それと共に四邊(あたり)はひしひし
とち込んだ深い森となつた。


※登るにつれてその森の深さがいよいよ明かになつた。自分等の
いま登りつゝある山を中心にして、それを圍む四周の山が悉くぎ
つしりと立ち込んだ密林となつてゐるのである。案内人は語つた。
この山々の見ゆる限りはすべてC―家の所有である。平地に均ら
して五里四方の上に出てゐる。そしてC―家は昨年この山の木を
或る製紙會社に賣り渡した。代價四十四萬圓、伐採期間四十五箇
年間、一年に一萬圓づつ伐り出す割に當り、現にこの邊に入り込
んで伐り出しに從事してゐる人夫が百二三十人に及んでゐる事な
どを。
 
 なるほど、路ばたの木立の蔭にその人夫たちの住む小屋が長
屋の樣にして建てられてあるのを見た。板葺の低い屋根で、その
軒下には女房が大根を刻み、子供が遊んでゐた。そしてをりをり
溪向うの山腹に大風の通る樣な音を立てゝ大きな樹木の倒るゝの
が見えた。それと共に人夫たちの擧げる叫び聲も聞えた。或る人
夫小屋の側を通らうとして不圖立ち停つた案内人が、
「ハハア、これだナ。」
と呟くので立ち寄つて見ると其處には三尺角ほどの大きな厚板が
四五枚立てかけてあつた。
「これは旦那、楓かへでの木ですよ、この山でも斯んな楓は珍し
いつて評判になつてるんですがネ、……なるほど、いゝ木理もく
めだ。」
撫でつ叩きつして暫く彼は其處に立つてゐた。
「山が深いから珍しい木も澤山あるだらうネ。」
 私もこれが楓の木だと聞いて驚いた。7
「もう一つ何處とかから途方もねえ黒檜くろびが出たつて云ひま
すがネ、みんな人夫頭の飮代になるんですよ、會社の人たちア知
りやしませんや。」
と嘲笑ふ樣に言ひ捨てた。

 坂を登り切ると、聳えた峰と峰との間の廣やかな澤に入つた。
澤の平地には見る限り落葉樹が立つてゐた。これは楢でこれが山
毛欅ぶなだと平常から見知つてゐる筈の樹木を指されても到底信
ずることの出來ぬほど、形の變つた巨大な老木ばかりであつた。
そしてそれらの根がたに堆く積つて居る落葉を見れば、なるほど
見馴れた楢の葉であり、山毛欅の葉であつた。
「これが橡(とち)、あれが桂、惡ダラ、澤胡桃(さはぐるみ)、
アサヒ、ハナ、ウリノ木・・・。」
 事ごとに眼を見張る私を笑ひながら、初め不氣味な男だと思
つた案内人は行く行く種々の樹木の名を倦みもせずに教へて呉れ
た。それから不思議な樹木の悉くが落葉しはてた中に、をりをり
輝くばかりの楓の老木の紅葉してゐるのを見た。おほかたはもう
散り果てゝゐるのであるが、極めて稀にさうした楓が、白茶けた
他の枯木立の中に立混つてゐるのであつた。
 そして眼を擧げて見ると澤を圍む遠近の山の山腹は殆んど漆
黒色に見ゆるばかり眞黒に茂り入つた黒木の山であつた。
常磐木の森であつた。
「樅(もみ)、栂(つが)、檜(ひのき)、唐繪(たうび)、黒檜(くろび)
、・・・。」
と案内人はそれらの森の木を數へた。それらの峰の立並んだ中に
唯だ一つ白々と岩の穗を見て聳えてゐるのはまさしく白根火山の
頂上であらねばならなかつた。

「下草の 笹のしげみの 光りゐて
   ならび寒けき  冬木立かも 」

「あきらけ く日のさしとほる 冬木立
   木々とりどりに  色さびて立つ 」

「時知らず 此處に生おひたち 枝張れる
   老木を見れば なつかしきかも 」

「散りつもる 落葉がなかに 立つ岩の
   苔枯れはてて  雪のごと見ゆ 」

「わが過ぐる 落葉の森に 木がくれて
   白根が嶽の  岩山は見ゆ 」

「遲れたる 楓ひともと 照るばかり
    もみぢしてをり  冬木が中に 」

「枯木なす 冬木の林  ゆきゆきて
   行きあへる 紅葉にこころ躍らす 」
「この澤を とりかこみなす 樅栂の
    黒木の山の  ながめ寒けき 」

「聳ゆるは 樅栂の木の 古りはてし
    黒木の山ぞ  墨色に見ゆ 」

「墨色に 澄める黒木の とほ山に
    はだらに白き  白樺ならむ 」


※澤を行き盡すと其處に端然として澄み湛へた一つの沼があつた。
岸から直ちに底知れぬ蒼みを宿して、屈折深い山から山の根を浸
して居る。三つ續いた火山湖のうちの大尻沼がそれであつた。水
の飽くまでも澄んでゐるのと、それを圍む四邊(あたり)の山が墨色
をしてうち茂つた黒木の山であるのとが、この山上の古沼を一層
物寂びたものにしてゐるのであつた。
 その古沼に端なく私は美しいものを見た。三四十羽の鴨が羽
根をつらねて靜かに水の上に浮んでゐたのである。思はず立ち停
つて瞳を凝らしたが、時を經ても彼等はまひ立たうとしなかつた。
路ばたの落葉を敷いて飽くことなく私はその靜かな姿に見入つた。

「登り來し この山あひに 沼ありて
    美しきかも  鴨の鳥浮けり 」

「樅黒檜(くろび)  黒木の山の かこみあひて
  眞澄める沼に   あそぶ鴨鳥 」

「見て立てる われには怯ぢず 羽根つらね
   浮きてあそべる  鴨鳥の群 」

「 岸邊なる 枯草敷きて 見てをるや
   まひたちもせぬ  鴨鳥の群を 」

「羽根つらね うかべる鴨を  うつくしと
   靜けしと見つつ  こころかなしも 」

「山の木に 風騷ぎつつ  山かげの
   沼の廣みに  鴨のあそべり 」

「浮草の 流らふごとく  ひと群の
    鴨鳥浮けり   沼の廣みに 」
「 鴨居りて  水(み)の面もあかるき 山かげの
   沼のさなかに  水皺(みじわ)  寄る見ゆ 」

「水皺 寄る沼の さなかに浮びゐて
    靜かなるかも  鴨鳥の群 」

「おほよそに 風に流れて  うかびたる
   鴨鳥の群を  見つつかなしも 」

「風たてば  沼の隈囘(くまみ)の かたよりに
   寄りてあそべり  鴨島の群 」


※さらに私を驚かしたものがあつた。私たちの坐つてゐる路下の
沼のへりに、たけ二三間の大きさでずつと茂り續いてゐるのが思
ひがけない石楠木(しやくなぎ=しゃくなげ)の木であつたのだ。
深山の奧の靈木としてのみ見てゐたこの木が、他の沼に葭葦
(あし)の茂るがごとくに立ち生うてゐるのであつた。私はまつた
く事ごとに心を躍らさずにゐられなかつた。


「沼のへりに おほよそ葦の  生おふるごと
   此處に茂れり  石楠木の木は 」

「沼のへりの 石楠木咲かむ  水無月(みなつき)に
   また見に來むぞ  此處の沼見に 」

「また來むと  思ひつつさびしい そがしき
   くらしのなかを  いつ出でて來む 」

「天地(あめつ)ちの  いみじきながめに  逢ふ時し
   わが持ついのち  かなしかりけり 」

「日あたりに  居りていこへど  山の上の
  凍しみいちじるし  今はゆきなむ 」


※昂奮の後のわびしい心になりながら沼のへりに沿うた小徑の
落葉を踏んで歩き出すと、程なくその沼の源とも云ふべき、清
らかな水がかなりの瀬をなして流れ落ちてゐる處に出た。そし
て三四十間その瀬について行くとまた一つの沼を見た。大尻沼
より大きい、丸沼であつた。
 
※沼と山の根との間の小廣い平地に三四軒の家が建つてゐた。
いづれも檜皮葺の白々としたもので、雨戸もすべてうす白く閑ざ
されてゐた。不意に一疋の大きな犬が足許に吠えついて來た。胸
をときめかせながら中の一軒に近づいて行くと、中から一人の六十
近い老爺が出て來た。C―家の内儀の手紙を渡し、一泊を請ひ、直
ぐ大圍爐裡の榾火ほだびの側に招ぜられた。
 
※番人の老爺が唯だ一人居ると私は先に書いたが、實はもう一人、
棟續きになつた一室に丁度同じ年頃の老人が住んでゐるのであつた。
C―家がこの丸沼に紅鱒の養殖を始めると農務省の水産局からC―
家に頼んで其處に一人の技手を派遣し、その養殖状態を視る事にな
つて、もう何年かたつてゐる。老人はその技手であつたのだ。名を
M―氏といひ、桃の樣に尖つた頭には僅かにその下部に丸く輪をな
した毛髮を留むるのみで、つる/\に禿げてゐた。
 言葉少なの番人は暫く榾火を焚き立てた後に、私に釣が出來る
かと訊いた。大抵釣れるつもりだと答へると、それでは沼で釣つて
見ないかと言ふ。實はこちらから頼み度いところだつたので、ほん
とに釣つてもいゝかと言ふと、いゝどころではない、晩にさしあげ
るものがなくて困つてゐたところだからなるだけ澤山釣つて來いと
いふ。子供の樣に嬉しくなつて早速道具を借り、蚯蚓を掘つて飛び
出した。
「ドレ、俺も一疋釣らして貰ふべい。」
案内人もつゞいた。
 小舟にさをさして、岸寄りの深みの處にゆき、糸をおろした。
いつとなく風が出て、日はよく照つてゐるのだが、顏や手足は痛
いまでに冷えて來た。沼をめぐつてゐるのは例の黒木の山である。
その黒い森の中にところどころ雪白な樹木の立ち混つてゐるのは
白樺の木であるさうだ。風は次第に強く、やがてその黒木の山に
薄らかに雲が出て來た。そして驚くほどの速さで山腹を走つてゆ
く。あとからあとからと濃く薄く現はれて來た。空にも生れて太
陽を包んでしまつた。
細かな水皺みじわの立ち渡つた沼の面はたゞ冷やかに輝いて、
水の深さ淺さを見ることも出來ぬ。漸く心のせきたつたころ、ぐ
つと絲が引かれた。驚いて上げてみると一尺ばかりの色どり美し
い魚がかゝつて來た。私にとつては生れて初めて見る魚であつた
のだ。慌てゝ餌を代へておろすと、またかゝつた。三疋四疋と釣
れて來た。
「旦那は上手だ。」
案内人が側で呟いた。どうしたのか同じところに同じ餌を入れながら
彼のには更に魚が寄らぬのであつた。一疋二疋とまた私のには釣れて來
た。
「ひとつ俺は場所を變へて見よう。」
 
※彼は舟から降りて岸つたひに他へ釣つて行つた。
 何しろ寒い。魚のあぎとから離さうとしては鈎を自分の指にさし、
餌をさゝうとしてはまた刺した。すつかり指さきが凍えてしまつたの
である。あぎとの血と自分の血とで掌が赤くなつた。
丁度十疋になつたを折に舟をつけて家の方に歸らうとすると一疋の
魚を提げて案内人も歸つて來た。三疋を彼に分けてやると禮を言ひな
がら木の枝にそれをさして、やがて沼べりの路をもと來た方へ歸つて
行つた。
洋燈(ランプ)より榾火の焔のあかりの方が強い樣な爐端で、私の
持つて來た一升壜の開かれた時、思ひもかけぬ三人の大男が其處に入
つて來た。C―家の用でこゝよりも山奧の小屋へ黒檜の板を挽きに入
り込んでゐた木挽たちであつた。用が濟んで村へかへるのだが、もう
暮れたから此處へ今夜寢させて呉れと云ふのであつた。迷惑がまざま
ざと老番人の顏に浮んだ。昨夜の宿屋で私はこの老爺の酒好きな事を
聞き、手土産として持つて來たこの一升壜は限りなく彼を喜ばせたの
であつた。これは早や思ひがけぬ正月が來たと云つて、彼は顏をくづ
して笑つたのであつた。そして私がM―老人を呼ばうといふのをも押
しとゞめて、たゞ二人だけでこの飮料をたのしまうとしてゐたのであ
つた。其處へ彼の知合である三人の大男が入り込んで來て同じく爐端
へ腰をおろしたのだ。
同じ酒ずきの私には、この老爺の心持がよく解つた。幾日か山の中
に寢泊りして出て來た三人が思ひがけぬこの匂ひの煮え立つのを嗅い
で胸をときめかせてゐるのもよく解つた。そして此處にものゝ五升も
あつたならばなア、と同じく心を騷がせながら咄嗟の思ひつきで私は
老爺に言つた。
「お爺さん、このお客さんたちにも一杯御馳走しよう、そして明日
お前さんは僕と一緒に湯元まで降りようぢやアないか、其處で一晩
泊つて存分に飮んだり喰べたりしませうよ。」
と。
 爺さんも笑ひ三人の木挽たちも笑ひころげた。
 
 僅かの酒に、その場の氣持からか、五人ともほとほとに醉つてしま
つた。小用にと庭へ出て見ると、風は落ちて、月が氷の樣に沼の眞上
に照つてゐた。山の根にはしつとりと濃い雲が降りてゐた。


 白根温泉「館」
↓徒歩
途中で大尻沼を見る
   ↓
 丸沼の養鱒場の番小屋泊
   ↓


N10月28日
十月廿八日
朝、出がけに私はM―老人の部屋に挨拶に行つた。此處には四斗樽
ほどの大きな圓い金屬製の煖爐が入れてあつた。その側に破れ古び
た洋服を着て老人は煙管をとつてゐた。私が今朝の寒さを言ふと、
机の上で日記帳を見やりながら、
「室内三度、室外零度でありましたからなア。」
といふ發音の中に私は彼が東北生れの訛を持つことを知つた。そして
一つ二つと話すうちに、自身の水産學校出身である事を語つて、
「同じ學校を出ても村田水産翁の樣になる人もあり、私の樣に斯んな
山の中で雪に埋れて暮すのもありますからなア。」
と大きな聲で笑つた。雪の來るのももう程なくであるさうだ。
一月、二月、三月となると全くこの部屋以外に一歩も出られぬ朝夕を送
る事になるといふ。
 

●養尊場
老人は立ち上つて、
「鱒の人工孵化をお目にかけませうか。」
と板圍=ひの一棟へ私を案内した。其處には幾つとなく置き並べられ
た厚板作りの長い箱があり、すべての箱に水がさらさらと寒いひゞきを
立てゝ流れてゐた。箱の中には孵かへされた小魚が蟲の樣にして泳いで
ゐた。
 
 昨夜の約束通り私が老番人を連れてその沼べりの家を出かけようと
すると、急にM―老人の部屋の戸があいて老人が顏を出した。そして叱
りつける樣な聲で、
「××」
と番人の名を呼んで、
「今夜は歸らんといかんぞ、いゝか。」
言ひ捨てゝ戸を閉ぢた。
 番人は途々M―老人に就いて語つた。あれで學校を出て役人に
なつて何十年たつか知らんがいまだに月給はこれこれであること、
然し今はC―家からも幾ら幾らを貰つてゐること、酒は飮まず、
いゝ物はたべず、この上なしの吝嗇だからたゞ溜る一方であるこ
と、俺と一緒では何彼と損がゆくところからあゝして自分自身で煮
炊をしてたべてゐる事などを。
 

●丸沼
※丸沼のへりを離れると路は昨日終日とほく眺めて來た黒木の
密林の中に入つた。樅、栂、などすべて針葉樹の巨大なものが
はてしなく並び立つて茂つてゐるのである。ことに或る場所で
は見渡す限り唐檜のみの茂つてゐるところがあつた。この木を
も私は初めて見るのであつた。葉は樅に似、幹は杉の樣に眞直
ぐに高く、やゝ白味を帶びて聳えて居るのである。そして賣り
渡された四十五萬圓の金に割り當てると、これら一抱へ二抱へ
の樹齡もわからぬ大木老樹たちが平均一本六錢から七錢の値に
當つてゐるのださうだ。日の光を遮つて鬱然と聳えて居る幹か
ら幹を仰ぎながら、私は涙に似た愛惜のこころをこれらの樹木
たちに覺えざるを得なかつた。

●菅沼
※長い坂を登りはてるとまた一つの大きな蒼い沼があつた。菅沼
と云つた。それを過ぎてやゝ平らかな林の中を通つてゐると、端
なく私は路ばたに茂る何やらの青い草むらを噴きあげてむくむく
と噴き出てゐる水を見た。案内人に訊ねると、これが菅沼、丸沼、
大尻沼の源となる水だといふ。それを聞く私は思はず躍り上つた。
それらの沼の水源と云へば、とりも直さず片品川、大利根川の一つ
の水源でもあらねばならぬのだ。
 
※ばしやばしあと私はその中へ踏みこんで行つた。そして切れる樣
に冷たいその水を掬み返し掬み返し幾度となく掌に掬んで、手を洗
ひ顏を洗ひ頭を洗ひ、やがて腹のふくるゝまでに貪り飮んだ。
 草鞋を埋むる霜柱を踏んで、午前十時四十五分、終つひに金精
(こんせい)峠の絶頂に出た。

●金精峠・・・群馬&栃木の県境。
金精様は男根=珍棒の神様である。
 でも、写真がない。





★明日は、中禅寺湖・日光かな?

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